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取り扱いと保存方法

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取り扱いと保存方法

日本刀は、取扱い方によっては作品を傷つけたり、また自分や他人を傷つけたりすることにもなりかねません。祖先から受け継いできた宝を大切に、日本刀の取扱いには充分に注意いたしましょう。

注意

1.)
刀剣類は白鞘入りのものでも拵のついているものでも、必ず刀袋に入れておくようにしましょう。袋に入れる場合は、鐺(こじり=先の方)の方から入れます。これは不意に抜けたり、鞘走ったりする危険を防ぐことになります。
2.)
刀剣を持ち運ぶ際は、必ず右手に下げ、柄の方を上にして、先の方がさがるように持ちましょう。これも危険防止のためです。
3.)
袋から出すときでも、刀を抜くときでも、つとめて柄の方を下にさげないように注意しましょう。
4.)
刀剣の登録証は、鞘に巻きつけ止めるか、刀袋に縫いつけるかします。しかし盗難等のために登録証は別に保管する方法もあります。

刀の抜き方・納め方

1.)鞘の抜き方
刀を抜くときは、太刀の場合でも、刀の場合でも、刃を上にして左手で下から鞘を持ち上げるように握り、右手で柄を上から握って、軽く鯉口(鞘口)をきり、(白鞘・拵を問わず、鞘口のところで鎺で堅く締めています。力を入れて急に抜くと鞘口をこわすばかりでなく、はずみで怪我をすることなどがあります。締まっている鎺の部分だけを抜くことを鯉口を切るといいます。) そして左右にがたつかせぬように注意深く、ゆっくりと抜いてゆきます。絶対に刃の方を下にしたり横にしたりしてはいけません。



2.)鞘の抜き方
刀を鞘に納めるときは、抜く時と同様に左手で鞘を、右手で柄を持ち、刃を上にして刀の切先を鯉口のところに静かにのせ 左右に刀身が揺れないように、鞘の溝に沿わせて入れてゆきます。そして鯉口のところで固く納めます。この場合も刃の方を下にしたり横にしたりすることはいけません。





日本刀の手入れ方法

刀剣の手入れは要約すれば、古い油を拭いとって、新しい油を塗りかえ、刀身が錆びないようにすることです。従って、汚れた油は出来るだけきれいに拭いとることが必要であり、次には新しい油を、くまなく薄く塗る(油をひくといいます)ことが肝要です。その手入れ道具と順序は次のとおりです。

手入れ道具

1.目釘抜(めくぎぬき)

刀の目釘を抜く道具で、真鍮製のものや竹製のものなどがあります。 手入れ道具

2.打粉(うちこ)

砥石の微細粉、約30~35gを吉野紙でくるみ、さらにその上を綿、絹でくるんだもので、刀身をたたくと、白い粉が出ます。(市販している。)

3.拭(ぬぐ)い紙

良質の奉書をよく揉んで軟らかくし、砂気や、ごみを充分除去したもので、下拭(したぬぐ)い用(油取り用)と上拭(あげぬぐ)い用(打粉取り用)と2種類あります。(ネルを使う場合は、よく水洗いして糊気をとり、乾かしてから使います。)

4.油

錆を防止するために塗る油で、丁子油(ちょうじあぶら)と呼ばれます。(市販している。)

5.油塗紙

刀身に油を塗る時に用いるもので、拭い紙やネルなどを適当な大きさに切って使います。

※ その他

木槌や、ベンジンなどが、必要に応じて用いられます。

手入れの順序と方法

目釘の抜き方
1.)
刀を横にして下におき、目釘抜(めくぎぬき)で目釘を抜きます。(目釘は紛失しないように抜いた柄の目釘孔(小さい方)にさしておく)


 
 
鞘の抜き方
2.)
刀を鞘から抜きます。



 

柄の抜き方
3.)
刀の柄をはずします。柄の抜き方は左手で柄頭(つかがしら)を棟の方から握り、刀を斜めに立て、右手の拳(こぶし)で軽く左の手首を打ちます。そして茎が軽くゆるんだところで、調子をはかってさらに2、3回手首を打ってゆくと自然に抜けてきます。適当なところで右手で茎をつかんで柄を抜き取ります。
この際、注意すべきことは、最初にあまり力を入れて強く手首を打ちすぎると、茎の短い短刀などはとび出してしまう危険があります。したがって最初に軽く打って、茎と柄の締まり具合をためした上で、適当に力を加減することが必要です。


鎺の外し方
4.)
鎺(はばき)をはずします。もし鎺が固くて、はずれない場合があります。そのときは鎺の棟の方を布で保護し、その上を木槌で軽くたたくと楽にはずれます。
拵付のものであったら柄をはずしてから、次に、切羽(せっぱ)や鐔をはずし、鎺もはずします。


 
油の取り方
5.)
次は拭(ぬぐ)いですが、この場合、拭い紙は2枚用意しておきます。そしてその1枚で古い油や、よごれを取ります。これを下拭いといいます。この時は、拭い紙を棟の方からあて、刀の刃先を親指と人さし指とで軽くおさえるような気持ちで力を入れずに、鎺元から上へ上へと静かに拭います。
鋒(きっさき)のところは特に力をぬいて鋒の形なりに払ってゆき、スッとぬいてゆきます。もし油がとれないようなことがあった場合には、脱脂綿かガーゼにベンジンか無水アルコールをつけて下拭いと同様の方法で拭います。それから改めて下拭いをかけます。
打粉の使い方
6.)
刀の表の鎺元(はばきもと)から鋒の方へ、平らにムラなくポンポンと軽くたたいて打粉をかけ、次に裏を返して逆に鋒から鎺元の方へ同様に打粉をかけます。更に棟にも軽く適当に打粉をかけます。



 
油の塗り方
7.)
次にもう1枚の拭い紙で下拭いと同様の要領で拭います。いっぺんできれいにならなかったら、更に打粉をかけ、上拭いを繰り返します。


 

刀身の納め方
8.)
拭い終えたら、錆(さび)が出ていないか、疵(きず)その他の故障がないかを確かめます。なお、この時用いる2枚の拭い紙は、以後使用する時には「下拭い用」「上拭い用」とそれぞれ区別して用いることが肝要です。
 

 

柄のはめ方
9.)
油塗紙(水で洗ったネルでもよい)を幅3cm、長さ6cmほどに適当にたたみ、これに新しい油をつけます。(事前に油がついているか確認しておく)右手で油紙を刀の棟の方からあて、拭いと同様な要領で静かにていねいに油を塗ります。油のつかない部分のないように確かめながら、時には2、3回繰り返します。 拭う時も同様ですが、細心に扱うことです。また、刀身に油を塗る場合、あまり少なすぎても困りますが、多すぎると油が流れて、鞘などを損ずるおそれがあります。薄くムラなく、平らに塗ることが上手なやり方です。
刀身の納め方
10.)
油のついた手で、軽く茎にも油を塗っておくのもよいことです。但しこれも多くべたつくほどにやることは禁物です。
11.)
鎺をかけて柄の目釘をぬき、刀を立てるようにし、左手に柄を持って、茎を柄に入れます。 刀を左手に持ったまま、ピタリとはいるように、柄頭を右の掌(てのひら)で下からポンと軽く打ちます。 よく納まったら目釘を打ち、刀を右手に持ちかえ、左手で鞘を握って前述(刀の抜き方、納め方)のようにして刀を鞘に納めます。 言うまでもありませんが、拵のついている場合は、一応、刀を鞘に納めたまま、切羽・鐔・切羽という順序に鐔をかけ、それから刀を抜いて柄に入れ、目釘を打って鞘に入れます。
12.)
槍や薙刀等の扱い方・手入れ法も同様ですが、槍は扱いを特に注意しないと、よく怪我をする場合があります。剣(両刃(もろは)のもの)も同様です。なお、日本刀は十数種類の砥石によって微細に研磨されているため、拭い紙や油紙に挨やごみが付いていると、ヒケ・疵の原因になります。ですので、手入れ道具は常に清潔に保管しましょう。

日本刀の保存方法

刀剣類を保存するには、錆びさせないこと、また疵などをつけないことです。そのためには次の事柄に注意する必要があります。

1 鞘にも気を配る

常によく手入れをして、油が乾かないように注意することが必要ですが、どんなに注意しても錆びることがあります。これは多くの場合、「鞘当り」といって刀身が鞘の部分に接触しているためです。これは鞘が悪いので鞘師(さやし)に相談して直さなければなりません。また古い鞘の場合は、鞘の内部に錆や汚れが残っていて、そこから再び錆の出ることもあります。この場合は、鞘を新調しなければなりません。

2 古い拵(こしらえ)に入れない

古い拵(こしらえ)に入れておくと、とかく錆が出やすいものです。元来、拵はよそ行きの着物で白鞘は普断着なのです。それで昔は白鞘のことを「休め鞘」とか「油鞘」などといいました。平生は普断着を着せておくことが理想です。白鞘は錆が出た場合は、直ちに割って中を掃除することが出来ます。白鞘は続飯(そくい)*でくっつけるものですので、セメダインなどのような接着剤を用いることは禁物です。
※続飯(そくい)・・・ご飯粒を練った糊

3 刀が錆びたら研師に相談

万一、刀が錆びた場合は、素人手入れなどはせずに研師に相談することです。角べらや文銭で錆の部分をこするなどのやり方は、研ぐ場合にかえって手数をかけることとなり、刀剣を損ずることになります。病気にかかったら信用ある医者、刀剣が錆びたら信用ある研師ということを常に忘れないようにしましょう。

4 油を絶やさない

研ぎ上げた直後は錆びやすいものです。半年ぐらいの間は特に注意して、ひと月に1度ぐらいは油をひきかえましょう。

5 半年に一度は手入れを行う

古い研の刀は普通、そう簡単には錆びないものですが、春秋2度ぐらいは手入れをしたいものです。

6 刀身の保管は湿度の低いところに

刀剣を保存する場合は立てかけておくことは好ましくありません。これは先の方に油が流れて溜まるからです。できれば湿気の少ない場所に横にしておきたいものです。桐の着物箪笥などに入れておけば理想的ですが、この際は樟脳やナフタリンは避けねばなりません。これは刀剣に錆が出る原因になります。

7 拵(こしらえ)の保管は湿度の低すぎないところに

刀身はなるべく湿度が少ないところに保管されるのが理想的ですが、逆に拵はあまり乾燥したところは適しませんので、保管場所をよく吟味しましょう。